ある日、賃貸住宅に暮らすあなたのもとへ、大家さんであるAがやってきました。そこでAから、「今の家賃は月額5万円ですが、近隣の家賃相場と比べて安すぎることが判明したので、来月分からは、月額7万円に値上げします。」と言われました。納得のいかないあなたは、いつものように、来月分の家賃として5万円を、支払い期日にAの家に持参したところ、Aから「7万円、全額を持ってくるまでは、絶対に受け取りません。」と、言われてしまいました。
ある日、お金を借りているあなたのもとに、貸主であるBがやってきました。そこでBから、「貸しているお金は月々3万円の分割払いという契約でしたが、急にまとまったお金が必要になったので、すぐにでも残額50万円を、一括で支払ってください。」と言われました。納得のいかないあなたは、いつもどおりの分割金3万円を、支払い期日にB宅に持参したところ、「50万円、全額を持ってくるまでは、絶対に受け取りません。」と、言われてしまいました。
このように、債権者たるAやBの一方的な都合で、債務者が弁済義務を果たそうとしてもできないときは、AやBの代わりに法務局に預かってもらえば、弁済したことになります。これを供託といいます。
金銭以外にも、一部の有価証券、その他の動産、不動産を供託することができます。
動産は供託できるのが原則ですが、例外的に、果物のように滅失・毀損のおそれがあるもの、動物のように保管に過分の費用が必要なものについては、裁判所の許可を得て競売し、その代金を供託することができます。
動産は、法務大臣の指定する倉庫業者に供託します。その地域に指定倉庫業者がない場合や、倉庫業者が拒否した場合には、裁判所が供託物保管者の選任を行います。
債権者が弁済の受領を拒まれてもいないのに、単に債務者の都合で供託を選択することはできません。
債務者が本旨弁済(=約束通りの支払い)をすることが供託の要件のひとつですから、たとえば契約上は月末に10万円支払うべきところ、用立てることができずに5万円だけを債権者のもとに持参したところ、受領を拒否されたというような場合は、供託はできません。
上記のような賃貸人からの賃料増額請求(5万円→7万円)に対して、賃借人が5万円を供託した場合、賃貸人が5万円を単純に還付請求して受領すると、5万円を賃料として認めたかのような外観になってしまうので、賃料の一部である旨の留保をして還付請求することができます。